思考の補助線

徒然なるままに、思ったことを書き留めます。

「潜在的ストレスをアートの力でポジティブに変える」という切り口 − 虹傘

今回は、takramというデザインエンジニアの会社が実施した、

ワークショップの中で生まれたアイデアを。

 

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          「虹傘」

 

「二つの傘が重ね合わさった箇所に、虹がかかる」というプロダクト。

 

 

こういった類のプロダクトデザインは

言語による説明が全くの野暮かと思いますが、

 

この素晴らしいデザインを生み出すプロセスついて、少し因数分解していきます。

 

 

そもそも、このtakramという会社が提唱・実践しているアイデアの考え方に、

「"ものづくり"と"ものがたり"の相互作用」=ストーリー・ウィーヴィビング

というものがあります。

 

プロジェクトの初期に設定したコンセプトを、

その後もプロトタイプを作成しながら柔軟に練り直し続け、

よりよいものに洗練させていく、という手法です。

 

 

イデアを企画するときによく「コンセプト」を先にカッチリ決め、

それから具体的な表現に落としていく、という手順を

特に戦略的な発想からアイデアを紡ぐタイプの人は踏みがちですが、

 

これだとロジカルに考えすぎて、いわゆる

「アイデアジャンプがない」表現に陥りやすいと思います。

個人的にも反省すべきポイントなのですが、

きっと多くの人にも当てはまるのではないでしょうか。

 

相当純度の高いコンセプトでなければ、表現として面白くならない。

直観的に人の心が動くには、あまりにも左脳的な小難しいものになりがちです。

 

結局はアイデアを受け取る人が、それを目撃した瞬間に

脊髄反射的に「いい!」と思うかどうか。

それだけの「わかりやすさ」「新しさ」「面白さ」を内包しているか。

 

そうしたものを具体表現に込めるためには、

必然的に、コンセプトの初期段階で実物のプロトタイプとして検証し、

その結果を持ってコンセプトに反映させて改良していく、という

「往復運動」が必要であり、

それこそがコンセプトの純度を高めていく方法ではないか。

 

とても納得性が高く、一方でプロトタイプまでスピーディに作成できる能力を

持ち合わせない企業が多いからこそ、

takramの提唱する方法論は、なかなか模倣できない競争力があります。

 

 

すこし話が逸れてしまいましたが、「虹傘」に戻ります。

 

このプロダクトが生まれたプロセスを勝手に解釈してみると、

「傘」という何世紀も進化してこなかったプロダクトに対する、

鋭い"行動観察"の素晴らしさが見てとれます。

 

「二つの傘が重ね合わさった箇所に、虹がかかる」という発想は、

まず間違いなく、机の前で悶々と考えていても思いつかないと思います。

 

傘が日常の中でどう使われているのかをつぶさに観察する、というプロセスが

必ずあったはずですが、その中でおそらく、

 

「二人並んで歩いたり寄り添いたいとき、傘って邪魔になるよね」

という気づきがあったのだと思います。

 

しかし、このストレスは「絶対にどうにかしたい!」と

強く表面化しているわけではなく、

あくまで「ちょっと嫌だけど、仕方ないか」と我慢できてしまうストレス。

 

しかし、そこにこそ、プロダクトが進化するヒントがあるように思います。

 

おそらくほとんどのプロダクトにおいて、

「もうこれ以上はない、カンペキ」と大満足で使われることなどありません。

日常の様々なシーンにおいて、必ずどこかで

「我慢できてしまう程度の、でも本当は解決できたら嬉しい」

ストレスが生まれているはずです。

 

 

そしてこのプロダクトの場合、そのストレスを

「他者との交じり合い」の中に見出したことも素晴らしいのだと思います。

 

「本当はもっと近寄りたいけど、傘が邪魔だな。無理だな。」

こんなストレスを、

「傘を持っているからこそ、近寄りたいな。」

というポジティブな気持ちに変える。

その先に、他者との素敵な関係性が育まれていく。

 

間違いなく、人の生活をよりよりものに変える物語が生まれます。

 

 

そして、傘を重ね合わせることで生まれるのが「虹」であることも、

すごくいいなぁ、と思います。

 

「傘を重ね合わせてみたい」と思えるようなデザインであれば

プロダクトとして一応成立はすると思いますが、

 

虹は、雨のあと、奇跡的に生まれるもの。

誰もが知っていて、出会いたいもの。

雨のたび、何度だって目にしたい、幸せな気持ちになれるもの。

 

それが、雨の日に他者に寄り添う、という

人の美しい行動によって、自然と生まれてしまう。

美しい情景が、いたるところで生まれていく。

 

プロダクトが使われるシーン、そのときの人の気持ちを汲み取って

「何が生まれたら人の心がもっとも動くか」を考え抜いて

"虹"に辿り着いているからこそ、本当に素晴らしいのだと思います。

 

 

まとめ

===
●戦略的point

・プロダクトを完全に満足して使っていることは滅多にない。

 口に出すほどではないが本当はどうにかしたい「潜在的ストレス」を見つけ、

 それをポジティブに変えることができればイノベーションが起こせる。

・実際に使用シーンをつぶさに観察し、「足で考える」。

 
●発想的point

・個人で使用するプロダクトであっても、

 「他者との関係性、交じり合い」の中で生まれる現象、ストレスに着目する。

・そこで何が生まれればストレスが解消され、ポジティブな欲求が生まれ、

 他者との素敵な関係を築けるのかを丁寧に考える。
  

インサイト的point

・「言われてみれば『それどうにかしたかった!』と思えるような悩みを

  解決してくれるモノがあったら使いたいし、その企業って素晴らしい」

・「大切な人に寄り添うだけで美しいものが生まれるって、とても素敵」

・「どうせ同じ様なものを使うなら、面白い/楽しいことが起こる方がいい」

 

●表現的point

・難しい行動変容を必要とせず、自然な行動によって生まれる作用に着目する

・アートの力でポジティブな変化を起こし、既にある行動に付加価値を生み出す

・その場そのときだからこそ、出会えたら嬉しいデザインを採用する

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